Kagurazaka 45.Tokyoのブログ

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「野生動物」の反対語?

 「野生動物」という言葉の反対語のひとつに、「人間との関わりを前提に生きている動物」というのがあるかもしれない。ペットしかり、家畜しかり、そして、競走馬しかり、である。

 長らく競馬を趣味にしているが、競馬を走るサラブレッドは、人が「走らせるために故意に作り出した馬」だ。「故意に」というのは、速く走るために、野生の馬に比べて極端に細い4本の脚で400〜500kg台の全体重を支えるように交配されたという意味で、サラブレッド同士の交配から生まれた馬でなければサラブレッドとは認められない。人間の賭け事の対象レースを走り、順位付けられ、成績の良し悪しによってその生涯が左右される。成績が良ければ種牡馬繁殖牝馬として長生きできるが、それも決して楽な一生ではないだろう。成績が良くなければ、何をか言わんや、である。

 野生動物とはまた違った宿命を背負って生まれてくるこの生き物は、怪我や病気などで走れなくなったときには、人間の手によって安楽死させられることも少なくない。忘れもしない1998年の宝塚記念武豊騎手を鞍上に臨んだ秋の天皇賞でいつものように大逃げを打ったサイレンススズカは、最終コーナー手前で骨折し急失速。予後不良というよく意味のわからない言葉を盾に、大観衆の見守るその場で、安楽死の処置が施された。本人の寿命とは全く無縁のところで一瞬にして命を奪われるということでは、象牙を確保するためや趣味のハンティングのために撃たれる野生動物と大差ないかもしれない。人間はいつからか、食物連鎖の輪とは全く無関係のところで、ほかの生き物の命を自由に操作してはばからない存在になった。

 人間のいない地球上では、「野生動物」という言葉も、その反対語も、存在しない。すべての生き物が野生であるならば、わざわざそう名付ける必要はないからだ。そういうことを思いながらも、今日も競馬は続き、競馬場に足を運ぶ自分も変わっていない。

 

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▲レースを終えた馬が寝床へ帰る。また次のレースに備えて......